第4章 電波利用調査結果よりアマチュアバンド拡張に向けての対応

 

第4章 電波利用調査結果よりアマチュアバンド拡張に向けての対応

 

今回の電波利用調査結果とその考察により、1.8/3.8MHz帯のアマチュアバンドの拡張の可能性があることが推定できました。それでは、今後どのように行政側に対応すればよいでしょうか。

 

これ以下の記述は、私個人の考えでありこの方法がすべてではありません。あくまでアマチュアバンドの拡張を実現させるためのひとつの進め方として提案させていただきたく思います。

 

第4-1 周波数割当計画

 

第2章でも記載したように、電波法では、周波数の割当について以下のように定義しています。

「周波数割当計画」は、電波法第26条第1項の規定に基づき、免許の申請等に資するため、総務大臣が作成し公表する「割り当てることが可能である周波数の表」であり、「実際の周波数使用状況に応じて再編する」ことと定められています。

周波数割当計画は周波数分配方針として記載されており、無線局免許における周波数の割当可能性に関する審査基準として用いられます。

したがってどれほど公共業務、一般業務、無線標定での利用がなくなった、または少なくなったとしても、この考察で記載したように「周波数利用計画」に基づいた無線局免許の実態の調査結を行政側に提示して、その事実を確認していただき、行政側が「周波数利用計画」を変更しない限り、アマチュアバンドの拡張は認められません。

このような状況を踏まえて、「アマチュア側はアマチュア用周波数の拡張」のような抽象的な要望ではなく、以下のような対応案を提案させていただきたく思います。

 

第4-2 自衛隊が使用する、3.5~3.8MHz帯の周波数利用について

 

    自衛隊は、短波でのモールス符号を使った無線通信を停波するセレモニーを2019年3月27日行い、2019年

3月31日をもって廃止しました。

一方で自衛隊による短波でのモールスによる通信については、以下のアドレスで公開されている

自衛隊で電波の監理に関する訓令(平成18年3月27日以降改正あり)ですでに主要な通信から除外されて

おり、事実上10年前から実運用はほとんど行われていなかったことになります。

<http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/a_fd/2005/az20060327_02418_000.pdf>

この電波の監理に関する訓令の基になる方針は、平成10年度(年度は不正確)防衛白書から明白な事で

あり、その防衛省の方針通り実行されたことになります。

なお、日本の航空、海上自衛隊による短波帯の通信状況については、以下のアドレスにて受信報告があり、

以前より航空自衛隊が使用している周波数であった、例えば3650.5kHzのA1Aの通信は、年1回5月に通信

を担当する各師団の通信指令所間での「短波帯モールス通信確保の運用検査・確認」を行う程度の頻度

であったことがわかります。

<http://www.udxf.nl/Japanese-military.pdf>

<http://www.numbersoddities.nl/N&O-249.pdf>

<http://www.numbersoddities.nl/N&O-256.pdf>

 

第4-3 アマチュアバンド拡張への対応案(私案)

 

・応案1

 総務省が進めている、「電波有効利用成長戦略懇談会」での「公共業務の周波数利用の見える化」を推進する方針に基づき、現在公開されていない公共業務の周波数を公開していただき、その利用実態を具体的把握する。

<http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000269.html>

 

・対応案2

 今回考察したように、「周波数利用計画」に基づいた電波利用の実態を調査した結果(エビデンス)を

行政側に提示し、この結果について行政側との周波数利用の考え方が一致しているかを確認して、相互に

その認識を共有する必要があります。

例えば、

1) 1.8MHz帯では、ロランA/Cはすでに廃止されているので、無線標定の周波数割当計画を変更できる

2) 1.8MHz帯に割り当てられている、漁業用ブイ(無線標定移動局)の免許を有している漁業者は、

    水産庁の操業許可を有していないことから、漁業用ブイを使用することはないとの認識を共有する。

3) 3.6/3.7/3.8MHz帯では、すでにGMDSSへの移行が完了し、GMDSS以降前に割り当てしていた

 指定周波数が複数存在します。よって総務省に対しては、「ITU 勧告通りにGMDSS への移行が完了した」

 との認識を共有して、GMDSS 以前の指定周波数の利用はなくなったと認識できないでしょうか。

     ・<https://www.tele.soumu.go.jp/resource/search/share/pdf/b_31.pdf>

  ・<https://www.tele.soumu.go.jp/resource/search/share/pdf/b_32-33.pdf>

4) 海洋レーダーについては、海洋レーダーの技術条件が定められている。この技術条件は、WRC-12の

 RESOLUTION 612  Use of service between 3 and 50MHz to support oceanographic Rader operations

 を基に策定されている。技術条件で海洋レーダーに割当られた周波数は 4438~4488kHz となり、

 アマチュアバンドは含まれていない。

 仮に周波数割当を行う主管庁である総務省は、海洋レーダーにWRC-12勧告以外の周波数の割当を行う

 場合、海上を含めて920kmの範囲にある近隣国との周波数共用の協議を行うことが義務付けられている。

 さらに、この範囲には使用するアンテナのバックローブも含められている。

  以上より

 「3500~3900kHz の周波数帯を海洋レーダーに使用することは、国際協調を進める上で難しい」と

 の認識を合わせることが挙げられます。

 <http://www.soumu.go.jp/main_content/000167026.pdf>

 

・対応案3

 今回の考察により、1.8MHz/3.5/3.7MHz 帯でアマチュアバンド拡張の可能性の概要が分かりました。

しかし、この考察で示した周波数全てを同時開放する要求を行うには、具体的検討と行政手続きを行

総務省、総合通信局の人的作業量を考慮した場合、総務省内での業務の優先順位を考慮すると無理があるか

と思います。

したがって、開放する周波数の優先順位をつけて対応することでアマチュアバンド拡張を早めることは

できないでしょうか。

たとえば

1) 1.8MHz帯では、1825~1850kHzの開放を優先する

2) 3.5MHz帯では、3575~3599kHzの開放を優先する

   これにより、現在デジタル通信の運用周波数が国際協調できるようになります。

 

 自衛隊の周波数利用については、前項第4-2 3.5~3.8MHz帯の周波数利用より、2019年3月31日をもって

アマチュアバンド内に割当されていた航空、海上自衛隊のモールス符号による短波帯の無線通信が終了

しました。また、アマチュアバンド以外の自衛隊の周波数利用については、「公共業務の周波数見える化」

を推進しても国の安全保障に関係する業務の周波数公開を求めるのは難しいと思われます。

したがって、1.8/3.5/3.6/3.7/3.8MHz帯を使用の有無の開示請求」など、「周波数の見える化」とともに、

情報公開請求を組み合わせてこの周波数帯の利用の有無を確認していくことができるのではないでしょうか。

このような情報公開請求が可能であることの理由の一つとして、

「海上自衛隊の使用する船舶の信号符字の付与及び取消」の事例があります。

<http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/a_fd/1973/ax19731026_00060_000.pdf>

 

 政府が発行する官報には、度々「海上自衛隊の使用する船舶の信号符字の付与及び取消」の案件が掲載され

ています。海上を航行する船舶は、国際海事機構(IMO)により船舶を識別する符号の付与が義務づけられて

おり、その付与と取消の通知が官報に掲載されています。

たとえば、南極観測で使用する船舶「しらせ」は海上自衛隊所属であり、「しらせ」の信号符号は、「JSNJ」です。以下のURLから現在の船舶航行状況が確認できる仕組みとなっている。

・<https://www.marinetraffic.com/ja/ais/details/ships/shipid:664910/vessel:SHIRASE>

「しらせ」以外で自衛隊の「護衛艦」で運用されている護衛艦「はるさめ」の信号符号は「JSQO」であり

以下URLより船舶の航行状況を確認することができます。

<https://www.marinetraffic.com/en/ais/details/ships/shipid:664911/mmsi:431999535/vessel:HARUSAME>

 

 このほか、海上自衛隊艦船の運行状況、信号符号は、以下のWebにアクセスして、画面右上の検索マーク

しらべたい船の名称をローマ字で入力することで確認することができます。

海上自衛隊の艦船リストは以下の海上自衛隊のホームページで公開されています。

全世界海上交通の運行状況

<https://www.marinetraffic.com/en/ais/home/centerx:140.1/centery:27.8/zoom:4>

海上自衛隊の艦船リスト

<https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/list/>

 

このような実例より、仮に自衛隊が使用している周波数については、具体的な周波数が開示されていなくても

(波長帯)の利用の有無などにより限定して開示できるのではないでしょうか。

 

・対応案5

 仮に行政側がアマチュア側の提示した調査結果について相互に理解が得られたならば、電波法第26

第1項の規定に基づき、行政側が速やかに「周波数利用計画」の変更手続きを進めるように依頼する必要が

あります。

行政の担当者には「アマチュアバンド拡張」は行政手続きの中では優先順位が低い可能性があると思います

が、電波法第26条第1項の規定の法の主旨に基づき公平な「周波数割当計画」の見直しを求めることが

必要かと思います。

 

・対応案6

 電波法第26条第1項の規定に基づき「周波数利用計画」の変更を行う場合には、変更内容が総務省内の

係部署の承認と総務省から無線局免許を受けている無線局、たとえば漁船であれば農林水産省、貨物船は

海上保安庁、気象庁と国土交通省への変更手続きの説明、ならびに関係省庁の承認が必要となります。

総務省内のみならず関係省庁、部局との調整は、マスコミ等で報道があるように、縦割行政組織を動かすに

はそれ相応の働きかけが必要となります。

たとえばアマチュアの偉大なOT/OM が行った嘆願書の提出も手段の一つでしょう。

一方で総務省の組織図を見ると、「周波数利用計画」を変更するためには総務省内部局では、

  1) 総合通信基盤局 電波部 電波行政課、基幹通信課、移動通信課、電波環境課での具体的手続き

  2) 統計局 電波利用のデータベースの管理

  3) 情報通信国際戦略局 ITU との整合性の確認

  4) 政策統括官 「周波数利用計画」の変更の妥当性を判断

   これだけの関係部局への働きかけが必要となります。 

   私自身がこれら行政手続きの調整を行うことを想像しただけでも、担当する行政官の労働時間を

   必要とすることが理解できると思います。

   さらに、省庁を超えた組織への承認手続きはさらに困難な対応が必要となります。

  ・<http://www.soumu.go.jp/main_content/000058278.pdf>

  5) この行政手続きを軽減するため、例えば1.8MHz 帯の漁業用ラジオブイ(無線標定移動局)の場合

   では、以下の水産庁のまぐろかつお遠洋漁業の操業許可の有無を提示して、実利用の可能性が非常に

   低いことを提示できます。

     ・1800kHz帯を使用するラジオブイの無線局

<https://www.tele.soumu.go.jp/musen/SearchServlet?SC=1&pageID=3&SelectID=5&CONFIRM=0&OW=MR+0&IT=&HC=&HV=&MK=&TSNJK=&KHS=&FF=1800&TF=1900&HZ=2&NA=&DFY=&DFM=&DFD=&DTY=&DTM=&DTD=&SK=2&DC>

   ・ラジオブイを使用する遠洋まぐろ・かつお漁船名簿

    <http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/sitei/attach/pdf/index-22.pdf>

 

・対応案7

 アマチュアバンドの拡張は、アマチュア側の論理では行政側が対応すれば良い事、対応しない、遅いなど

は税金の無駄遣い等の不満もあるかと思います。しかし、行政側は前記したようにたとえアマチュアバンド

の拡張であっても、必要な行政手続きを一方的に簡略化、省略することはできない行政官としての服務規程と法的な拘束があります。

 総務省内すべての部局の承認、関連省庁の承認が得られた後に必要な手続きは、総務省の

「電波監理審議会」に「周波数利用計画」の変更を審議していただく必要があります。

<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/kaisai.html>

 

・対応案8

 このような行政手続きに精通した専門家、たとえば弁護士、司法書士、行政書士の協力は必須と

思います。アマチュア無線、特にDX 交信を楽しみにしているこれらの専門家がいれば、協力がえられるかも

しれません。しかし前記したように非常に多くの時間を必要とするため、専門家のボランティアに頼るのは

時間と金銭面の制約でかなり難しい事かと思います。

以上を踏まえて、アマチュアバンドの拡張を切に望む方々は非常に多いと思います。この方々の力は非常に

大きいと思います。

 そこで、最近注目されているクラウドファンディングの仕組みを利用して、アマチュアバンドの拡張を望む

方々、アマチュア無線機の製造会社、販売会社、JARL、JARD などから寄付を募り、その資金で弁護士の

先生に専従でアマチュアバンド拡張への行政手続と周波数利用の実態の認識を共有する、その後具体的な

行政部局内、関連省庁への承認手続きの交渉と進捗管理を専門的見地で対応していただき、最終的総務省令

改正までを対応するような事が必要になると思います。

 少なくとも、アメリカのARRL は、アマチュア無線が災害発生時などの非常事態への貢献が求められ、

年の具体的活躍が認められているからこそ、アマチュア無線への法的影響を行使できる環境、協力者が

多い利点があります。

この事例に習い、日本のアマチュアも同様の対応が必要な時期になっているのかと思います。

もし仮にこのようなクラウドファンディングが立ち上げるのであれば、私は喜んで金銭面の協力させて

いただきたく思います。

 

第5章  最後に

 

 日本のアマチュア無線は、免許人口世界1、2位を有するアマチュア無線大国です。近年理科離れや

アマチュア無線の特権でもある自作=ものづくりを実際に行うことが少なくなっています。

またコンピュータ、インターネットの普及でアマチュア無線に関心を持つ若年層が少なくなっていることを

考慮すると、できる限りアマチュア無線をより始め易く、手続きを簡素化することが必要かと思います。

この考察結果をきっかけにして、短波通信の奥深さを多くの方々に体験できるようになれば幸いです。

 

2018年7月27日 JJ1RUF 佐藤秀幸